2015.7.17
報道発表研究者・関係者向けニュース

【報道発表】地上・衛星観測データが示す大気中二酸化炭素 の行方~異なる2つの最新手法を相互的に評価~

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平朝彦、以下「JAMSTEC」という)地球表層物質循環研究分野の近藤雅征特任技術主事と国立研究開 発法人国立環境研究所(理事長 住明正、以下「NIES」という)地球環境研究センターの共同研究グループは、主要な温室効果ガス※1である大気二酸化炭素(以下、CO2と表記)の地球全域に渡る吸収排出量について、地上・衛星観測データを用いた、異なる2つの最新推定手法を相互的に比較・評価し、北半球中高緯度地域においては信頼のできる推定が可能になったことを明らかにしました。CO2吸収排出量について、これまで生態学、数理学を基盤にした数値モデルによる推定評価が行われてきましたが、このような観測データを用いた手法の評価は、世界で初の試みです。

研究グループは、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(以下、「GOSAT衛星」という)※2が測定する大気CO2濃度からCO2吸収排出量を推定する手法と、CO2吸収排出量の地上観測ネットワークを機械学習モデル※3によって経験的に広域化する手法を用い、これら2つの手法が推定する近年のCO2吸収排出量の整合性を調査しました。

本研究の結果、北半球中高緯度域において、2つのCO2吸収排出量の推定が非常に高い整合性で合致することが判明した一方、熱帯域において、大きな違いがあることが明らかになりました。GOSAT衛星による推定に比べ、地上観測ネットワークによる推定では、熱帯域のCO2吸収量を過大に推定する傾向にあり、これは、熱帯域での地上観測が不足していることから生じると考えられます。この結果は、熱帯域の地上観測ネットワークを充実させることが、今後のCO2吸収排出量の正確な把握につながることを示唆しています。

 

地球温暖化などによる気候変動の将来予測においては、陸域におけるCO2吸収排出量の把握が重要であるとされています。本研究の成果は地球温暖化などによる将来の気候変動予測の際のデータとしても利用が可能で、予測精度の向上に貢献できます。

なお、本研究は環境省環境研究総合推進費(課題番号:RFa-1201)および宇宙航空研究開発機構 地球環境変動観測ミッション(GCOM)第4回研究公募(課題番号: 115)の一環として実施したものです。この成果はアメリカ地球物理学会誌「Journal of Geophysical Research-Biogeosciences」に7月17日付(日本時間)で掲載予定です。

 

※1 温室効果ガス:地球表面から放出された赤外線を吸収し、再び地球の表面に向かって放出することで、大気を暖める効果を持つ物質。

※2 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT): 環境省、国立環境研究所及び宇宙航空研究開発機構が共同で開発した、世界初の温室効果ガス観測専用の衛星。大気中のCO2とメタンの濃度を宇宙から全球で均一に観測し、その吸収・排出量の推定精度を高めることを主目的にしている。平成21年1月23日に打上げられ、現在も観測を継続している。

※3 機械学習モデル:人間の学習能力を簡略化したアルゴリズムをコンピューター演算に適用した数理モデル。真値データの一部と関連する学習データを入力とし、学習させることで、データ間に内在する関係性を予測する。